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2019.06.28

【驚異の情報取集術】地獄耳のアケミ

幼少の頃、私が住んでいる町に「地獄耳のアケミ」と呼ばれていた熟女がいました。

なにしろ随分昔のことなのでおぼろげな記憶ではありますが、おそらくアケミはスナックのママかなんかをやっていたんだと思います。

なぜそう思ったかというと、アケミはいつも昼間はスッピンで、毎日ヨレヨレのトレーナーにスゥエットを着ていましたが、夜になるとなんとも煌びやかな夜の蝶に変身していたからです。

当時の私は彼女のことを、たいそうなババアだと思っていましたが、今思えば40歳そこそこだったような気もします。

さて、そんなアケミがどれほどの地獄耳だったかというと、あの悪魔の力を身につけたデビルマンでさえ、腰を抜かすほどのデビルイヤーだったのです。

実際、彼女は町に起こったありとあらゆることを知っていました。

近所で起こった痴話喧嘩や交通事故はもちろんのこと、どこの飼い猫が何匹子猫を産んだとか、誰の家の鶏がいつ絞め殺されたのかとか、挙げ句の果ては見ず知らずの他人の家の晩飯の献立まで知っていました。

驚くことに彼女は、あまり面識のないはずの私が学校の帰りに野糞をしたことまで知っていたのです。

恐るべき情報収集能力です。

携帯もSNSもない時代にアケミはどうやってこれほどの情報を集めていたのでしょう。

やはり「悪魔の力」なのでしょうか。それとも実はアケミは某国に送り込まれた女スパイだったのでしょうか。

あれこれと考えた結果、私はアケミが人にモノを尋ねる時の「ある特徴」について思い出しました。

アケミは何かの情報を欲しい時に、必ず自分の知っている情報を織り交ぜながら人に質問していたのです。

例えばこうです。

「八百屋の息子のAちゃんが給食で人参が食べられなくて居残りさせられてるって知ってる?」

ここで彼女が知っている情報は「Aちゃんが給食の人参を食べられなくて居残り」ということだけです。

しかし不思議なことに、こんな質問をされ方をすると、人間というものはなぜかそこに新しい情報を入れて返してしまうのです。

例えばこうです。

「人参だけじゃないよ。Aちゃんは牛乳も飲めないらしいよ」

また、思わぬところでAちゃんとは全く違う人間の情報が入ってくることもあります。

「人参が食べられないのはAちゃんだけでなくてBちゃんもだよ」

つまりアケミは自分が唯一知っている情報である「Aちゃんが給食の人参を食べられない」という情報をフックにして、さらに新しい情報を他人から導き出していたことが推察されるのです。

しかも恐ろしいのは、たとえアケミから情報をもらった人間が「Aちゃん」のことも「人参」のことも「居残り」のことも一切知らなくても、無意識のうちに似たような情報を彼女に返してしまっていることです。

「そういえば一丁目のご隠居が餅を喉に詰まらせて病院に運ばれたそうだな」

「あらあら、二丁目の新婚さんなんかは膣痙攣で搬送されたらしいわよ」

人参は餅に変わり、「喉に詰まらせて病院送り」は「膣痙攣で救急搬送」に内容を変え、アケミのところには次から次へと新しい情報がアップデートされていくわけです。

まさに情報の「わらしべ長者」です。

実はこのアケミの「情報収集術」は現代でもかなり有効です。

人から情報を引き出すときは、まず自分の知っている情報を織り交ぜながら質問をしてみましょう。

「俺は知らないんだけど、闇営業をしている芸能人を知らない?」

こんな聞き方では誰も何も教えてくれないのです。

文責:編集長原田