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2018.12.27

【シニアの帰省】自由席の自由

正月休みが近づき、巷の交通機関ではいよいよ帰省ラッシュが始まります。

この原稿を書いているのは12月26日の午後ですが、すでに東京駅には帰省客と思しき人々がちらほらと見受けられます。

故郷に向かう人々の顔は皆、穏やかですが「貧乏暇なし」の私は青い顔をしながら新幹線に乗って出張です。

次の日の早朝から用があるため前日の午後に東京を出発したのですが、それでも新幹線はいつもより混雑しておりました。

そんな新幹線の車内で、私は「ある珍妙な事件」に遭遇したのです。

私は3列席の窓際、車輌と車輌をつなぐ入り口付近に座っておりました。生意気にも指定席を確保し、アホヅラをしながら車窓を流れる景色を眺めておったのです。

すると突然、背後から見知らぬ紳士に声をかけられました。

「失礼、お隣の席は空いてますかな?」

おそらく新横浜駅から乗った客だと思われますが、発車してからすでに10分以上は経っていたので、このいきなりの「声かけ事案」に私は必要以上にビクついてしまいました。おそらく傍から見れば、自家発電中にいきなり誰かに部屋のドアを開けられたのと同じくらいビクッとしたに違いありません。

「驚かせてしまいましたかな。これは失礼。ところでお隣は空いてますかな」

振り返るとそこには70代後半と思しき身なりのキチンとした紳士が、にこやかな表情で立っています。高級そうなシャッポを被り、腕には金のロレックス。見るからに金持ちそうです。

しかしながら、指定席が「空いているか」とはおかしなことを聞く人です。

「一応、空いているとは思いますが、あなた指定席券は…」

私の言葉を最後まで聞かず、紳士はおもむろに自動ドアの向こうにいる誰かを呼びつけます。

「おいっ! ここ空いてるってよ。早く来なさい」

すると開いた扉の向こうに紳士の身なりとは打って変わった薄倖そうな淑女がちんまりと佇んでいるではありませんか。察するに奥方でしょうか。女性は、きまりの悪そうな顔をしながらモジモジしています。

私はその女の態度を見て、ハッキリと確信しました。

(この2人、指定席券を持っとらん)

グズグズしている古女房にイラついたのか、爺様は嫌がる婦人の手を取り、半ば強引に座席に座らせます。

そしてこともあろうテーブルをセットするとおもむろに弁当を広げだしたのです。

「パクパク、ムシャムシャ、ピチャピチャ、ペチャピチャ」

しかもこの老紳士、食い方が異常なまでに汚いのです。音は立てるは、口から米粒はボロボロこぼすはで、さらに絵に描いたような犬食いです。よもや腕も千切れよとばかりに獰猛に弁当にがっついているのです。私もこれまで様々な年寄りに遭遇してきましたが、これほど他人に不快感を与える食い方をする紳士は見たことがありません。

「シーッ、ハーッ、シー」

ものの5分もかからずに飯を平らげた老獣は、今度は満足そうに音を立てながら達者に楊枝を操っています。オゾマシイことに窓から差す日光の加減で私の席からはテーブルに歯クソがぶっ飛んでいるのがよく見えます。

そして、嗚呼、床にも醜いほどに食いカスが散乱しているではありませんか。

ん? あわわわわわっ。ワシの靴にまで米粒が!

そしてさらに紳士はとんでもない暴挙に出ます。

「プスーーッ」

おわっち!

私は思わず声をあげてしまいました。なんと、紳士ときたら悪びれもせず、私のほうに軽くケツを上げてスカシッ屁をこいたのです。

「オ、オエーーーーッ」

しかも、なんて臭い屁なんでしょう。こんな腐った屁の臭いは嗅いだことがありません。

連れの女のほうは慣れたものでマスクを着用し、ソッポを向いています。

しかも、私が新幹線の窓にカリカリと爪を立ててもがき苦しんでいるにもかかわらず、紳士ときたら屁の謝罪を述べるどころか、まるでおかしな生き物を見ているかのように不思議そうな顔をしながら私を覗いていやがるのです。そうです。紳士の野郎は「自分は生まれてからこのかた、そんな臭い屁なぞしたことはございません」といった顔でしらばっくれているのです。なんというゲス野郎なのでしょう。世が世なら打ち首モノです。

そこに今度は車内販売のワゴンがやってまいりました。販売員がウグイスのように麗らかな声で近づいてきましたが、我々のシートの前に来た途端にむせ始めました。原因はわかっています。紳士が放屁した悪臭に違いありません。

紳士はそんな可哀想な販売員にはお構いなしにコーラを所望します。悪い予感がいたします。

案の定、紳士はコーラを一口飲んでは「隠れゲップ」をし始めたのです。これがまた臭くって臭くってタマリマセン。ケツにしろ口にしろ、これほどまでの悪臭を放つとは、紳士はいつもナニを食べているのでしょう。そして、この地獄はいったい何駅まで続くのでしょうか。

辛抱タマラズ、私はついに紳士に尋ねました。

「失礼ながら、ここはあなたのお席ですか?」

するとやはり思った通りの答えが返ってきました。

「もちろん違います。でも見てください」

紳士は私の眼の前に新幹線のチケットを差し出します。

「じ、自由席…。こ、これはいったい…。えっ? だ、だから?」

わけがわからず動揺する私に紳士は声高らかに言い放ちました。

「そうです。自由席です。つまり、席が空いていれば指定席だろうがグリーン車だろうが、自由に座ることができるのです。だから自由席なのです」

あわわわわっ! ドシーーー!

私は思わず悲鳴を上げてしまいました。紳士のおっしゃっていることは至極、理にかなっているように見えますが、もちろん違います。それがたとえJRの東であっても西であっても山陽であっても九州であっても、そんなルールはありません。

当然、自由席のチケットではグリーン席はおろか指定席も座ることはできません。

おそらく、紳士はこれまでも、その独自の論理で自由席のチケットでグリーン席や指定席を彷徨い続けてきたのでしょう。

そもそも「人がいなければいい」という考え方は、昨今のシニアが非常に陥りやすいリスクのひとつです。

少し内容は異なりますが、今朝のニュースでも宮崎県で高齢の女性が運転する車が「歩道を爆走する」という恐ろしい事件が報道されてました。

今回の紳士の論理は歩行者がいなければ歩道でも車は走ってかまわないということにもなりかねません。

皆さん、自由とは社会のルールを守り、他人に向けて屁をこかないなどの思いやりがあって初めて謳歌できるものです。

年末年始、自由の名の下に暴走しないようにお気をつけください。

文責:編集長原田