【都市の死角にて】非常階段の落し物
先日、久々にアパートの管理人さんに会った時、こんな妙なことを言われました。
「毎年の恒例行事ではあるんだけどね、この時期になると非常階段に忘れ物が増えちゃってさ。しかも大概、持ち主は出てこないんで、いつも取り扱いに困ってるんだよ」
私がアジトにしているアパートには、居住者が普段の生活で使う階段の他に、緊急用として外からは見えない非常階段があります。
各階に1つづつ非常階段に通じる鉄製の扉があり、居住者がソコを使うことは滅多にありません。
しかし、そんなところに「忘れ物」とはどういうことでしょう?
私「管理人さん、それって“落し物”の間違いぢゃないですか?」
管理人さん「いんや、落し物ぢゃないね。“忘れ物”だよ。ウチだけじゃなく、この時期は、どこのアパートでもマンションでも非常階段に忘れ物が増えるんだよ」
私「え? ウチだけじゃなく、どこでも、ですか? それはいったいナゼざんしょ?」
管理人さん「言わずと知れたことさ。この時期になると“いかがわしい行為”をするアベックの不法侵入が増えるんだよ。
ナゼ忘れ物が増えるかっていうとね、う~ん、例えば、ちょうど、ヤっている最中にうっかり人が来たりするでしょ。そうすっと、男も女も下半身丸出しで、ひでぇ格好してるわけさ。
とにかく、大事なもん隠して逃げるのが精一杯でだから、いろんなものを忘れていくんだよ。
こないだもね、偶然アタシが非常階段の点検に入ったら、昼間っから高校生のカップルがサカっていやがって、私が入ってきた瞬間に脱兎のように逃げてっちゃった。
そいつらなんか、通学カバン置いてっちゃったよ。どうしたもんかねぇ」
驚きました。春は、そこらじゅうの非常階段が、アベックたちのハッテン場になっていたんですね。ちっとも知りませんでした。
でも、何で非常階段なんですかね? ヤりたいんだったら、ラブホテルにでもカップル喫茶にでも行けばいいと思うのですが。
そこで、男女の恋愛事情に詳しいルポライターにお話を聞いてみました。
私「なんでこの時期、非常階段で猥褻な行為をするカップルが増えるんですか?」
ルポライター「まず前提として心に留めておいていただきたいのは“春が出会いの季節”だということです。
非常階段で猥褻な行為に及んでいる男女のほとんどが、知り合ったばかりのカップルだと考えてください。
つまり、まだホテルに行くまでに至っていないセックス解禁前の男女なんですね。
キスぐらいなら、多少人目につくところでも堂々としているカップルはよく見かけますが、お互いに燃え盛ってくるとそういうわけにはいかなくなります」
私「ああ、いわゆるペッティングというやつですね」
ルポライター「そうです。ペッティングはセックスの前哨戦でもありますから、さすがに変態でもない限り、人前でやるわけにはいきません。
でも、まだ関係値がホテルに行くまでに達していない。そうなると男と女は、“物陰”を探すわけです」
私「なるほど、それが非常階段なのですね」
ルポライター「最初から非常階段というわけではありません。男性にいきなり非常階段に連れ込まれたら、女性も怯えますからね。
おそらく、公園や建物の陰なんかでキスをしたり、お互いの体を弄っていたりしているうちに、もっと過激なことをしたくなり、周囲を見渡したら、偶然誰も入ってこないであろう非常階段を見つけたという流れでしょう」
私「非常階段って、そんなに簡単に入れるものなんですか?」
ルポライター「非常というぐらいですから、防災上、外に直結しているものが多いんです。柵があるところもありますが、緊急の事態に備えて低く作られているのが普通です。大人の男女なら簡単に乗り越えられますよ」
私「なるほど、つまり非常階段を利用するのはセックス前のカップルが主流なんですね。じゃあ、念願叶ってセックスできたら、非常階段での猥褻行為は自然になくなりますね」
ルポライター「そうですね。でも、ホテルと非常階段を併用するカップルもいるんです」
私「え? それはどんなカップルですか?」
ルポライター「訳ありのカップルです。つまり不倫関係の男女ですね。
このようなカップルの場合、どちらかに時間の制限があるんです。
つまり、いつもラブホに行く時間を作れる間柄ではない。そうなると、短い
時間でエロを満喫するために非常階段を使い続けます。
また、社内不倫でお互いに忙しい関係にあるカップルは自分の会社の非常階段でおっぱじめることもあるようですね。
これは私の実体験なんですが、昨年の春、付き合いのある広告代理店で仕事をしていてなかなか終わらず夜深い時間まで居残りになってしまったことがあるんです。
アイデアに詰まったので、外の空気を吸おうとして、非常階段に出たら」
私「出たら?」
ルポライター「男の前に女がしゃがみこんでアレを咥えてました。
両方とも顔見知りだったんで、びっくりしましたね。この人たち、そういう関係だったんだって(笑)」
私「いやはや。これから非常階段に出るときは、男女がヤッていることを念頭に置きながら、扉を開いた方が良さそうですね」
ルポライター「そうですね。夜10時を過ぎたら、50%はそういう事態になっていると想定したほうがいいでしょう」
私「50%もですか! 半分の確率じゃないですか! 二つ扉を開いたら、一つはヤッてるってことですよ」
ルポライター「ま、春ですから」
いかがでしたでしょうか。皆さんの暮らすアパートやマンションにも非常階段があると思いますが、夜10時を過ぎたら気をつけてください。
見知らぬ男女がタイヘンな痴態を晒しているかもしれませんよ。
文責:編集長原田