【還暦放浪記】ホームレスは読書がお好き
普通の生活をしている時、私はほとんどテレビを見ない人間だった。
もちろん事務所にテレビは置いてあったから、仕事中BGMの代わりのように1日中つけてはいたが、真剣に見るのはせいぜいニュースや自分が興味を持っているスポーツ中継やドキュメンタリー番組ぐらいのものである。まかり間違ってもゴールデンタイムのバラエティ番組など見たこともないし、見たいと思ったこともない。
なぜなら、今のテレビ番組、特に人気のある話題の番組を見たとしても、そのどこが面白いのかが私にはさっぱり分からないからだ。
それはさておき、ホームレス生活を始めて2カ月半が経ったが、この間テレビはほとんど見ていない。
田町のカプセルホテルのテレビ付きの部屋(というかカプセル)に泊った時にだけ1時間ほど見る程度だ。
しかし、それで困ったということは、今のところ一度としてない。日々のニュースは新聞やネットで知ることができるから、仮に誰かに最新ニュースの話題を振られたとしても話に困ることはなく、十分対応できるのである。
つまり、少なくとも今の私にとって、テレビは何の役にも立っていないということがよ~く分かった。
となると、これまでなら何となくテレビをぼんやり見るとはなしに見て過ごしていた時間を、今いったいどうしているのかというと、ひたすら読書をしている。
何しろ時間はあり余るほどあるのである。
だから、これまで読みたくても時間がなくてなかなか読むことのできなかった長編や全集を片っ端から読んでいるのだ。
ただ、ホームレスの身としては本を買うとその分、持ち歩く荷物が増えることになってしまう。そのため基本は図書館で、読む分だけを借り、読み終わったらまた借りることにしている。毎日のように通っている都立中央図書館は、残念ながら館外貸し出しを一切していないので、主に港区や品川区の区立図書館を利用しているが、どこの図書館も1回に10冊まで約3週間貸してくれるので、かなり分厚い長編小説も期限内に読み切ることができるのである。
ホームレス生活には辛いことや不便なことがたくさんあるが、それでも中には、こうしたいい点もあるのだ。私もそうだが、本が好き、読書が趣味、はたまた活字に接していないと何となく落ち着かないという人ならホームレス生活も悪くはない。
しかし、本に興味がなく、これまでの生活でも活字と触れることがほとんどなかったという人には、こんな楽しみを味わうことができないだろう。その点はちょっと気の毒なような気がする。
とはいえ、それはこちらサイドの勝手な想像であって、そういう人は、私の知らない他の楽しみを十二分に堪能しているのかもしれない。
つまりは、誰にも邪魔されることなく自分の趣味を思う存分楽しむことができることが、実はホームレス生活の最も大きなメリットではないかと私は思うのだ。
記事/快活60還暦記者:清水一利
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