佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2020.01.28

第81回「パズルのような国際政治」

2020年1月、国会での代表質問が始まりました。カジノを含むIR(統合型リゾート)事業参入に絡んだ贈収賄事件、大阪都構想、桜を見る会に関連した公文書の取り扱い問題、経済運営など安倍総理の施政方針演説に対する質問が始まりました。これらの質問の中に忘れられているものがありました。

それは、中東への自衛隊派遣に関する議論が国会で行われなかったことについて異議を唱える党がなかったということです。これは熱しやすく冷めやすい日本人の体質からくるものではないようです。2019年暮れも押し迫った12月27日朝、政府は中東地域で日本に関係する船舶の安全確保に必要な情報収集体制を強化する為という名目で、日本独自の取り組みとして自衛隊の護衛艦と哨戒機の派遣を閣議で決定しました。

これを受けて2020年1月11日、 海上自衛隊のP3C哨戒機部隊が、中東派遣のため出発しました。2019年の暮れには、野党は一斉に、国会で議論もせずに中東へ自衛隊を派遣するのはおかしいではないかと眉間にしわを寄せていました。

それが今回の代表質問では全く俎上に上がらず、それどころか日本維新の会に至っては馬場伸幸幹事長が「中東という危険な地域に自衛隊が派遣される際に充実した手当は出されているのか」と訊く始末です。与党とのなれ合いもここまでくれば立派なものです。

どうしてみんな口をつぐんでしまったのか、僕は考えてみました。野党の一部からは自衛隊の中東派遣は「アメリカのお先棒担ぎ」ではないかと批判が出ていましたが、何もアメリカのご機嫌取りにひょこひょこ自ら出て行ったのではないだろうなと思います。

思い当たる節があります。それは年明け早々、日本ではまだおとそ気分の3日、米軍によるイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官をドローン攻撃によって殺害したことです。簡単に言うと、こうです。トランプ大統領と安倍総理とののホットラインで、ソレイマニ司令官殺害計画があるので、中東情勢の安定の為に自衛隊派遣を宜しく、と言ってきていたのではないかなと思うんですね。

では、自衛隊中東派遣についてはいつ頃から計画を立てていたか、それは2019年の10月に遡ります。10月18日政府は中東情勢の安定と日本に関係する船舶の安全確保を理由に、ホルムズ海峡周辺のオマーン湾などに中東への自衛隊派遣を検討していると発表しているんですね。しかもこの時期にあえて米国主導の海洋安全保障イニシアチブに参加しない理由について、菅氏は「どのような対応が効果的か総合的に検討した結果、日本独自の取り組みを適切に行っていくこととした」と説明しています。イランを刺激しないために用意された言葉であることは言うまでもありませんが、あまりにもタイミングが合っていますよね。

というのも実はソレイマニ司令官に悩まされていたのがアメリカだったんですね。11月12月にはソレイマニ司令官の指示で米軍施設やアメリカ大使館などが11か所も攻撃をしかけられているんですね。そんなソレイマニ司令官の動きに10月くらいからいよいよ神経質になっていたのがアメリカだとしてもなんら不思議はないですね。当時は、菅官房長官が「(中東情勢について)情報を収集する必要がある」と発言したのが不自然に感じたものでしたが、こうやってパズルを合わせるとカチッと音まで聞こえてきそうなくらい腑に落ちる話となります。おそらく政府筋の人に訊けば「そんなこと政治家なら誰でもわかっていることですよ」と言われるのが落ちでしょうが(もちろん、わかっていても誰もそうだとは言わないでしょうが)、僕自身は誰に言われたわけではありませんし何の証拠があるわけではないですが、これでようやく合点がいきました。

1月8日にはイランはアメリカへの報復攻撃としてイラクにある駐留米軍基地2カ所を弾道ミサイル十数発で攻撃しましたよね。おそらく米軍にはほとんど被害がなく、一方イランは報復攻撃で米軍80人死亡、と大々的に報じました。それで双方が立場が保たれて、緊張が解けた、そこに 海上自衛隊のP3C哨戒機部隊が11日、中東派遣のため出発したんです。みごとに八方丸く収まりました。

こういったことが万が一にも事実だとしたら、誰がそのシナリオを描くのでしょうか。アメリカ側から出た計画であることはほぼ間違いないとしても、そこに具体的に呼応するのは日本側では外務官僚ということになるんでしょうね。決して今後の国際情勢を楽観視するものではありませんが、米中ロいずれの大国も今度世界大戦になったら地球が滅びるという懸念だけは共有しているようです。ですからその一環としてこのような猿芝居というか茶番というか、行われてしかるべきということになるんでしょうね。そうなると国内の与党も野党もなく、かくして結局だれも自衛隊中東派遣をもっと論議すべきだなどと、ピントはずれ(政治家の間では、という限定表現ですが)なことは言わなくなったということではないかと僕は思い至るのですが・・・。

 

【参考文献】

〇NHK 政治マガジン

〇毎日新聞社説

〇朝日新聞

〇NHK NEWSWEB

〇ニッポン放送NEWSNLINE

 

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使