佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2020.01.06

第79回「まき子さんからの蘭の花」

見事な蘭の花が咲きました。美しく堂々と気品があり、気高い雰囲気を湛えつつもしっとりとした優しさ、色香を感じさせる蘭の花です。寄贈した自宅近くの老人ホームで再びおじいちゃんおばあちゃんを喜ばせてくれました。

実はこれ、2018年8月に僕が横内正さん主演の「リア王」で初めて役者として日本橋三越劇場の舞台を踏んだ時にお祝いとしてあの石原まき子さんが送ってくれたものでした。素人に毛が生えたような演技しかできなかった自分がどれだけ励まされたかわかりません。横内正さんの舞台、そして石原まき子さんからのひときわ華やかな“五連の蘭の花”それだけで自分のつたない演技を棚上げして幸せな気分に浸ったものでした。そしてそれから1年4か月、11月の終わりに花が開いたそうです。老人ホーム、ボンセジュールで蘭の面倒を見てきてくれたおじさんがそう言っていました。

「普通、蘭は2月に咲くんだけどこの時期に咲くというのは業者がそういう風に仕上げたんだろうねぇ」

こう不思議そうに感心していました。おじいさんというにはまだ若いその男性がまた丁寧に丁寧に見てくれていたようです。業者の思惑とは別に、そうでなければこんな時期にこんなに人を喜ばせる蘭の花は咲きませんよね。何度もその方に「ありがとうございます」と頭を下げました。どんな花でも可愛らしかったり綺麗だったりして人の気持ちを和ませるものですが、あの蘭の花が咲いたと聞いたときほど嬉しかったことはありませんでした。そして実際この目でその蘭の花を目撃した時には、もうオーバーではなく飛びあがるほど嬉しかったのを覚えています。

振り返ってみれば、舞台が千穐楽を迎え三越劇場を後にして打ち上げに向かうその時まで、このままこの蘭と“さよなら”するのは、あまりにも寂しい気がしていて、まき子さんの気持ちをそこに置いてくるような思いにもなり、どうしても持ち帰ろうと決めたのがきっかけでした。蘭の花をまた咲かせることができたから、どうだという訳ではないんですが、やっとまき子さんの優しいお気持ちに感謝した自分が表わせたように思えたのかもしれません。

それにフリーになって8年になりますが、この花が咲かなければ、そろそろ潮時かも知れないとひそかに自分で願掛けしていた様にも思えます。それが咲きました。ともすると弱気になりかけていた自分ですが、まだまだいけるぞ、という気持ちになることができました。老人ホームにはよく蘭の花が届きます。ですから蘭の花は特段珍しい訳ではないでしょうが、この蘭はその老人ホームのラウンジの一番目立つところに置いてあって、ホームの事務の女性に、こういういきさつの蘭の花だと伝えたらすごく驚いて喜んでくれていました。ホームでも急に特別な蘭の花になっちゃいました。

そう言えばそのホームで働いている人は仕事という以上に心底優しい人が多くて、そのホームにいた頃の義父の話をしたら、義父に困らせられたフロアチーフの男性は義父のことを涙ぐんで話していました。そんな老人ホームで舞台に送って頂いたときとはまた違った味わいを見せ、再び誇らしげに咲き誇った蘭の花、送ってくれた方が大女優なら、この蘭の花も命の泉で光を放つ女王の蘭です。まき子さんありがとうございます。

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使