佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2019.12.09

第75回「幸せって、すぐなれる!?」

あなたはどういう時に幸せを感じますか?「束の間の幸せなんて、すぐ消えちゃうよ」と言っているあなたこそ、束の間でもいいから幸せを感じたいと思っていませんか。みんなそうですよね。人はどうして生きているのか。大上段にかまえてものを言うつもりはないのですが、それは「幸せ」になるために生きているんですよね。だから、みんなが幸せになる権利があるんです。

この間、僕はとっても幸せな気分になりました。

東京には新宿から小田急線という私鉄の電車が走っています。新宿が始発で終点です。

新宿から、快速ならふた駅目に下北沢という駅があります。小さな飲み屋さんが軒を連ねていたり、劇場があったり、家賃のそう高くないアパートがあったり、主に若者が集う街です。そうですね、若者文化の発祥の地のひとつかもしれませんね。

その日、僕は疲れて帰路についていました。新宿から下りの小田急線に乗って、快速で20分くらい乗ります。

ですから、出来れば座りたいのですが、住宅街も走っている路線ですから、四六時中、満員です。下りで始発の新宿から乗っても、出発時間10分以上前から乗車しないと座れません。

その日もご多分に漏れず、座れませんでした。若い人も数多く乗っています。夜10時くらいでしたでしょうか。そこで一計を案じました。というほど大げさなものではないですが、途中で降りそうなお客さんを見つけようとしました。よくそういうことはやるのですが、なかなかうまくいかないものです。熟睡体制に入っている人はまず、すぐには降りませんよね。それからお歳を召した方は、郊外の持ち家の確率が高いですから、新宿に近い駅では降りないだろうという僕なりの計算があります。その日は、若者にターゲットを絞りました。夜10時と言っても遊び盛りの若者にしてみれば、ひょっとして新宿からほど近い下北沢駅で降りるんじゃないか、などと淡い期待を抱いていました。この時間から遊ぶとなれば、元気な学生、と相場は決まっています。

そこで、あまりくたびれ感がない、スマホでゲームを楽しんでいるか、音楽を聴いているような、それでいてあまりどっしり「ようし、落ち着くぞ」感がなく、こじゃれたセーターか何かを着込んでいる18、9歳から22,3歳くらいの男の子の前に立ちました。

僕なりにこの男の子が降りるんじゃないかと狙いを定めていた下北沢の駅に到着しました。快速に乗りましたから、ここで降りてくれなければ、僕は快速の次の駅で降りるんですね。ですから「座る」計画は水の泡、結局新宿から都合20分近く立つということになります。その男の子は降りる気配がありません。他の座席で、そそくさと降りる若者が何人かいました。おじさんもいましたが、若い人に狙いを定めていた僕は、おじさんに席を立たれても悔しくはありませんでした。でも僕の前に座っている若人が席を立たないのにはがっかりしていました。

と、その時です。発車のベルが鳴るのと同時に、やおら顔をあげて車窓からホームに目をやったその男子は慌てて席を立ったのです。ゲームか音楽に夢中になっていて、下北沢に到着したことに気が付いていなかったんですね。僕の真ん前に座っていたその若者が席を立った瞬間、どんなにうれしかったか、内心『やったぁ!』大当たりですからね。

しかも降りない様子でフェイントをかけられていたようなものですから、僕の逆転勝ちです。ちょっとオーバーですが、今までの『ラッキー! 座れた』の中で、一番うれしかったですね。降りる駅が来るまでずっといい気分でした。立っている人に悪いので、ニヤニヤはしませんでしたが、笑いがこぼれそうなくらいうれしかったですね。あれって「幸せ!」ですね。今後いいことが続きそうな気がしますよね。まぁ、あんまり根を詰めて「このお客さん、降りないかな」って思って立っていると以心伝心でなんだかイヤな雰囲気が立ち込めますし、人相も悪くなるし、思っている本人もくたびれてきますから、ほどほどにした方がいいですけどね。

お金をかけなくたって、幸せって、どこでも味わえるんですね…。めでたし、めでたし。

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使