佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2019.12.02

第74回「優しさって?」

実際の話です。

65歳と67歳の男の兄弟の介護の話です。お父さんは亡くなっていて、二人で、認知症が進んだ92歳のお母さんの面倒を見ています。と言ってもそのお母さんは記憶力は衰えていますが、その場その場の判断は割としっかりしているそうなんですね。

二人で面倒をみているとは言うものの、弟さんのほうは東京に出ていっているし、お兄さんのほうも車で1時間くらいのところに住んでいて、いつも傍にいるわけではないんです。それでも1日おきにお母さんのところに来ていて1泊していく事も多く、弟さんは「ホントに兄のおかげで助かっている」と言っています。

ヘルパーさんが日曜日以外毎日1~2時間くらいその家に来て、食事やお風呂の世話をしたり、掃除、洗濯を済ませて帰っていっているそうです。そのお母さんがちゃんと薬を飲んでいるか、容態のチェックもしているということです。つまり老人ホームにいるのとほぼ同じくらいの面倒はみてもらっている訳ですね、そのお母さんは。

兄弟の間では、「母がひとりでお手洗いに行くのが難しくなったら、老人ホームに連れて行かなくてはいけないね」と話しているそうですが、そのお母さんは「自分の家がいい」と言い続けているそうです。今のところ、大きな問題はなく、大方はつつがなく過ごせているようです。年金暮らしのお母さんですが、亡くなったお父さんが真面目にコツコツ働いていたこともあって、生活には困っていないようです。

それなら、なぜわざわざそんな家族の話をここで引っ張り出してきたのか、と言われそうですが、そんな平穏無事な家族でも悩みがあったんです。

それは冬場の暖房です。そのお母さんは昔から電気ストーブをつけていました。今まではなんとか無事に過ごせてきたのですが、旧式の電気ストーブで、電気が入ると2本の管が熱くオレンジ色になって、反射板を受けて電気ストーブにあたっている人は熱いくらいになるものでした。タイマーもついてなければ、その電気ストーブがひっくり返っても安全装置が作動してスイッチが切れるわけでもありません。兄弟で、「今年の冬はどうしようか」という話になったそうです。

結論として、最新のガスストーブにすることになりました。安全装置もついているし、ガスが漏れる心配もないんですね。でもガスホースを這わせなければいけなくて、そのホースにそのお母さんが躓いたら、何のためにガスストーブにしたかわからない、元も子もなくなっちゃうんですね。そこでホースは家の床下を這わせることにしたそうです。家の改装工事とまではいかなくても床に穴を開けたり、ちょっとした工事が必要になるんですね。

そうすると費用の方も10万円くらいは平気でかかっちゃうことになります。そこで弟さんは「おふくろが安全なら少しの出費は仕方ないよね、まだまだ長生きしてもらわないと合わないよね」と冗談交じりで言ったそうです。するとお兄さんは「いいじゃないか、今年しか使わないようなことになっても今年おふくろが安心してあったかく過ごせるなら」と口にしたそうです。弟さんはそこでは口にしなかったそうですが「兄貴の勝ちィ!」と思ったそうです。

皆さんには、なぜお兄さんのほうが勝ちなのかわかりますよね。

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使