佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2019.11.25

第73回「ギョッとした、たわいのない話」

クルマに乗っていてテレビをつけたら、画面が現れる前にまずが聞こえてきますよね。

突然、耳に入ってきたその言葉にビックリして思わず急ブレーキをかけそうになりました。女の人のきれいな声で「耳を切り落とせばいいんですね」と言っているんです。楽しそうに。

『えっ、ナニ、嘘でしょ』とクルマを止めて画面を見たら、料理番組で、食パンを使った料理を作っているんですね。「パンの耳」とわかれば、何のことはない、当たり前の会話だったんです。単なる僕の勘違いで、とんでもない会話が繰り広げられていると思い込んじゃっただけの話で一人で苦笑してしまいました。

でも考えてみたらテレビって、まぁ、ラジオもそうですが、どこから見始めるかわからない、そういう生活ツールですから、プロの喋り手であれば気を付けなければいけないなあ、と妙にしみじみ思ったんです。テレビって、そういう意味でも怖いですよね。

ではこういう表現の場合、なんと言えばいいのでしょう。「耳を切り落とせば――――」とスタジオで口にしたのは、アナウンサーではなくて料理の先生でしたから、多分、ご自分で料理の先生として赴くときはいつもそういう表現をしているんでしょうね。料理教室はメディアという媒体ではないのでそれで何の問題もないですよね。料理を習う生徒さんにしてみれば、当然料理に関する言葉として受け止める準備が出来ているからです。

ところがテレビは違います。心の準備どころか目的意識もなく何の気なしにテレビのスイッチを入れるわけですから、こんな笑い話が起きちゃうんですね。それを承知の上で、こういう状況をアナウンサーが喋るんだったら、どこから聞いてもらっても「ギョッ」とされないように、せめて「パンの耳を取って作ればいいんですね」と言うようにしなくちゃいけないんでしょう。

元来、音と映像がいきなり飛び込んでくるテレビというものは刺激が強いものです。ですから、同じシチュエーションでも、それがテレビというハコから発せられると強い言葉であればあるほど、抵抗感を持たれやすいことになります。皆さんがちょっと注意してご覧になれば例えば「嫌い」という言葉は「苦手」という言葉に置き換えられていたり、はっきりわかっていないものについては「~かもしれません」という表現にとどめたりしているのに気が付きますよ。

これらは放送人なら暗黙のルールのようなものですが、そういうことがわかってテレビを見ると、視聴者はまた、新鮮な面白さを感じることが出来る【かも】しれませんね。おっと、局アナ時代からのクセが出ちゃいました…。

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使