佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2019.11.10

第71回「東京オリンピックはいずこへ」

オリンピックのマラソン競技が札幌で行われるらしいですね。時計台の下をひた走るのもまたおつなものかもしれませんね。

でもそんな悠長なことを言っていられないのが、小池都知事です。頭から湯気が立ち上っているのが見えるほど激怒していました。『冗談じゃない、東京でやると言ったじゃない、バッハ(トーマス・バッハIOC会長)だかショパンだか知らないけどふざけんじゃないわよ』と言わんばかり。それが証拠に「(マラソンを)涼しいところでやるというんだったら、安倍さんはプーチン大統領と仲がいいんだから、北方領土でやればいいんじゃないですか」と強烈な発言まで飛び出しました。笑うに笑えないというのは、この事ですねぇ。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会森喜朗会長はラグビーワールドカップを日本にもってきて大成功でした。ですからその余勢をかって「今さらIOC(国際オリンピック委員会)に反対してどうするんですか」と都知事につれない様子。そう言えば5年前、森さんは「新国立競技場のこけら落としにラグビーワールドカップを外したことを後悔するだろう」てなことを述べていたんですね。そのあてつけ、というといかにも子供じみていますが、なにせIOCバッハ会長とは、職務柄、小池都知事よりはるかに親密そうですからね。

森さんは10月3日に行われたIOC理事会に東京からテレビ電話で参加していましたが、その席上IOCバッハ会長から「アイルランド戦の勝利、おめでとう」と祝福されているんですね。森さんにしてみれば、数年前のラグビーに対する日本の冷たさよりもはるかにバッハ会長率いるIOCに対しての方が思い入れが強い、とすれば、マラソンを札幌でという案に対して「マラソンを札幌でやるというのは面白いね」とバッハ会長に賛同したと考えられなくもないですね。東京オリンピック本丸の東京都小池都知事の頭越しでそういう話が出ていたとしてもいきさつ上不思議はないですね。

バッハ会長にしてみれば“マラソンを札幌で”という話を、間違いなく反対される小池都知事より、親しみをもち、更にはラグビーの快進撃で上機嫌の森組織委員会会長森さんに軽く相談した方が賛同を得られる、と考えたのかもしれません。

ですから、小池都知事が知る数日前に森さんはバッハ会長からこの件を知らされている、と解釈しても自然ですね。そうやって考えると、なんだか生臭く、どこにもアスリートファーストなどというものが登場しないんですね。

猪瀬元都知事の時に決定した東京オリンピックですから、小池都知事が額に汗してオリンピック・パラリンピックを東京に持ってきたわけではないですね。しかもリオのオリンピック閉会式には不祥事で辞任した前舛添都知事の代わりに次期五輪開催地の東京都知事ということで晴れ舞台に着物姿で立っているんですね。いわゆるオリンピックに関して美味しいところはこれまでみんな小池さんが持っていっていたんですね。でも世の中そんなには甘くできていないんですね。

それにオリンピック前に都知事の任期が来てしまい都知事選をやらねばならないのですが、この選挙はどうするんでしょうか。2013年にオリンピックが東京に決定して日本中が狂喜乱舞していた時期もありましたが、これでマラソンが札幌で行われることになれば、猪瀬さんが標榜していた「コンパクトなオリンピック」「ほとんどの競技会場が近くにある」などの公約がまるで無視されることになりますね。

それに東京都はふんだんに予算があります、5000億円です、などと胸を張っていましたが、今やオリンピック予算は「兆」がつく予算が組まれている国家事業で、もはやオリンピックは巨大産業と化しているようです。ですから、東京オリンピックと言っても、全てが東京で行われなくてもニッポンのオリンピックとして外国人にも東京だけでなく各地のパブリシティにもなると考えると、リスクだけではないかもしれません。

ただ、この暑さ対策にも万全の策を講じ、コースも熟知してオリンピックとほぼ同じコースでマラソン選手を内定した、MGCマラソングランドチャンピオンシップはいったいなんだったのでしょう。ホームグラウンドのアドバンテージはどこにもないマラソン競技に出場する選手はこの決定に面喰うばかりでしょう。それが一番気がかりです。そして、日本のオリンピック熱に水を差すことにならなければいいのですが。

 

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使