佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2019.09.02

第63回「不思議なこと」

「どうして?」って考えだしたらキリがないですよね。神様っているの、いないの? 宇宙って何? 無限ってナニ?僕なんか、何もわかりません。特に“無限”なんて考えだしたらおかしくなってきそうです。アインシュタインは「無限なものはふたつある。宇宙と人間の愚かさだ」と説いていますね。そう言われれば、確かに人間の愚かさは果てしない訳で、宇宙も果てしないという事か、って頷きそうになるのですが、やっぱり人間の愚かさが果てしないことは判っても“宇宙の無限”は僕の脳みそでは理解しがたいですね。

せっかくこういうことを書いているのだからって、ちょっとネットで調べてみたんですが、“無限というのは1種類ではない”なんてまたいよいよ訳の分からないことが書かれていました。おそるおそるもう少し読み進めると数を数える行為、これは終わりのない行為で“可能無限”という、と出ています。はい、そこまで。自分に言い聞かせて止めました。

“宇宙と人間の愚かさは無限”、そんな哲学的に大きなことでなくても、不思議なことはたくさんあります。身近なことでどうしてもわからないこと、これを書くまでずっと不思議に思っている、引っ掛かっていることがあります。ちいさな町なかのさびれた洋品店がなぜ潰れないか、ということではありません。それは以前テレビでやっていました。今日書くことはもっとミステリーです。皆さんも一度や二度、見たことがあると思います。それは、『駅のホームで最終電車に乗らない客』です。わかりません。その時間まで他の客と同じように電車を待っているかのようにしか見えない客なのに、最終電車に乗らない、なぜでしょう???

突然、気分が悪くなったから?

イヤ、そうでもなさそうです。

終電の終着駅が自分の降りたい駅まで行かないから?

それなら最初から待つ必要はないですよね。

ひょっとしたら誰かがその駅で降りてくるかもしれないから、待っていた?

これがわずかに成り立つ可能性のある理由ですかね。こういう客、滅多にませんが、たしかにいます。出来ることならその人のその後の行動を知りたいくらいです。こういうのってどうでもいいんですが、知りたい、ですよね。

気持ちが和んだ、不思議なこともありました。これがまたちょうどお盆の頃だったものですから、合点がいっちゃったんです。

義理の父がこの6月旅立ちました。95歳でした。身内が言うのも変ですが大往生でした。義父が住んでいた大きな家を妻と妻の妹と3人で整理し始めました。義父は絵が好きで骨董品に興味を持ち、植物も大事にしていた風流な趣味人でした。大きな植木鉢に入った椰子やソテツを普通ゴミとして運び出すには一番長いところを50㎝以下にしなくてはいけません。僕はひとりで一日かけて16鉢整理しました。1本だけのぞいて古くなった、緑の見えなくなった樹木の幹を50㎝以下に鋸でゴシゴシやっていました。「お義父さん、ごめんなさいね」って心の中で呟きながら。

そうしていると庭に一羽のアゲハ蝶が飛んできました。ひとりで汗をだらだら掻きながら作業していましたから、なんだか一服の清涼剤のように感じられ、癒される思いでその蝶を見つめていました。

しばらく見ていた後、このところあまり手入れをしていなかった為に庭の歩くところにはみ出した雑草を引き抜いたりもしていました。

ふと、さっきまで蝶が留まっていた葉っぱに目をやると、なんとまだ留まっています。近くの草木を刈ったりして、蝶が留まっていたところもそれらの草木に引っ張られ揺れていたので、とっくに飛び去ってしまっただろうと思っていましたが、動ずることなく木陰のその葉っぱの上で休んでいました。

それで、どうだということではないんですが、その後は妙に作業がはかどり、狭くない大理石の玄関に水を流しピカピカにして帰りました。久々に体を動かし疲れはしましたが、すっきりしました。実家をきれいにした僕にカミさんも気分が悪いはずはなく「ご苦労さん、今日は牛だね!」と珍しく二人仲良く夕食をとりました。

そのアゲハチョウの話をカミさんにしました。カミさんは「へぇーっ、そうなの、それ、お父さんだね」と言うのです。別にふたりとも厚い宗教心を持ち合わせている訳でもないのですが、その一言には妙に納得してしまいました。義父が他界しての新盆でしたからなおさらですね。

調べると、昔から日本ではそういう言い伝えがあるんですね。極楽浄土に蝶が舞っている絵もいたるところで目にしますしね。科学的に言えば、たまたまお盆の頃はアゲハ蝶が多く見られる季節だということでしょう。だから何の不思議もないのですが、それからというもの、なんだか夫婦仲がまろやかになり、僕自身もカミさんの細かな注文にもいら立ちをあまり感じ無くなりました。

あの実家は義父がたいそう気に入って買った家で庭仕事も大好きでしたから、「植木をあんまり乱暴にあつかうなよ、家をキレイにしてくれてありがとう」などと言いに来てくれたのかもしれません。

僕にとっての不思議はそのチョウチョというよりも、我が家の安寧、ということ、ですかね。そうか、義父は「娘と仲良くやってくれ」と言いに来ていたんですね。

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使