佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2019.07.08

第56回「二槽式洗濯機とFXチャートの共通点」

昭和の時代の話です。二槽式洗濯機というのがありました。もっと遡って、母が大きな金だらいに洗濯板を斜めにして一方の端を金だらいの中につけて、洗濯物をすりおろすようにして洗っている時代もありました。64歳の自分が小学校に上がるかどうかの時代ですから、ざっと60年前の話ですね。考えてみれば、その頃は洗濯って重労働だったんですね。

つい最近、ベージュ色のズボンに油じみが付いてしまって、その部分だけつまみ洗いしたのですが、結局、ズボン全体が水をたっぷり吸いこんで、妻から、「乾かすと縮んじゃうよ」と脅され、夜中に乾かし、翌日すぐにクリーニングに出したのですが、やっぱり少し縮んじゃいました。あとはもう、ダイエットするしかなく、トホホな思いで、痩せたいときに履くようにしていますが。

で、なぜこの話になったかというと、そのつまみ洗いをしただけで、右手の中指がこすれて、皮がむけてしまったんですね。踏んだり蹴ったり、の油じみでした。ことほど左様に、つまみ洗いしただけでこの無様(ぶざま)ですから、肌にいかにも良くない洗剤につけて、波打つ洗濯板でゴシゴシやっていた母親の時代の女性の皆さんは相当手が荒れたでしょうね。大概かがんでやるから腰にも悪い。今でも母親の存在は子供にとって、とてつもなく大きいことは言うまでもないですが、まだまだそんなに便利ではない時代の母親というのは、特に偉大だったように思いますね。

さて、時は流れて、僕が社会人になった時分には、かすかに全自動と呼ばれる洗濯機が登場し始めていました。それはもう一槽式で、ご存じのようにほぼひとつのタンクの中で洗濯、すすぎ、脱水までやってくれる優れものでした。

しかし、僕がお世話になったのは、主に二槽式脱水洗濯機でした。話がようやく本題に入ってきました。今思うと、その洗濯機とFXなどのチャート(例えばドル円などの相場のグラフのようもの)に共通点があったんです。

FXでは最小単位1分足と呼ばれる、秒きざみでグラフが伸びたり縮んだりするチャート、これを僕は見ているだけで実に面白いんですね。まるで生き物のように、伸び縮みしながら上がったり下がったりするんですから。

暇つぶしで見ようものなら、あっという間に1、2時間経っちゃうんですね。特に自分が、例えばUSDJPY(俗にドル円と言いますが)を売りとか買いで、エントリーしている時にはもう時間が経つのを忘れちゃいます。

それが二槽式の洗濯機にもあったんです。因みに、テレビ、冷蔵庫、そして洗濯機とくれば、昔の三種の神器、その一角を占める洗濯機にこんな面白さが潜んでいたんですね。洗濯機の渦に吸い込まれていく、洗い物の様子に目を奪われるんですね。独身時代、無造作に放り込んだ木綿のシャツなどが中に空気が入って一部お餅のように膨らんでいるんですね。これを見ているのがなんだか楽しかったんですね。その膨らんだところをボンと指で突いて空気を出して、シャツを洗濯機の中の渦に沈めていくのも悪くはないんですが、それだと味気ないんです。

ですから、もどかしいんですけど、シャツから自然に空気が抜けるのを待つんですね。ずうっと洗濯機の渦を見つめているんです。その間、洗剤の泡が大きくなって、量もモコモコ増えて白いシャツのテルテル坊主のように膨らんだところが見えにくくなる、そうするとシャツの膨らんだところを残しながら、その泡をうまくどかすことになるんですが、これもまた技術を要して面白いんです。やがてシャツの膨らんだところが、渦に巻き込まれながら、空気がスッと抜けていく瞬間があるんですね。この瞬間を見届けると、スッキリ、するんです。でも見損なったりするとそれまでの苦労が、それこそ水の泡になっちゃうんですね。

FXでもチャートでもレジスタンスのラインというのがあってそこを抜けると一気にチャートが走ったりするんですね。その抜ける瞬間を見届けると、これまたスッキリするんです。同じような爽快感と言いたいところですが、かたや、チャートはお金を入れて見ていると、儲かるか損するか、ですから興奮もするし、緊張もするんですね。そこへいくと、洗濯物の空気の膨らみは、頭を空っぽに出来るんです。ストレスが溜まらないんですね。最近、FXのチャートを見ることが多く、これって似たようなことがあったよな、と思いを巡らせていた時に、ふと、洗濯機のことを思い出したんです。

余談ですがあの二槽式、脱水まで済んだら、隣のタンクに洗濯物を移し替えるんですが、この中で洗濯物が脱水されている間、ゴットンゴットンと音がして、洗濯物が暴れるんですね。音がしなくなると『あ~、間もなく脱水が終わるな』と思ったものです。昔のことを懐かしく思い出すと、人って和みますね。と言っても今でも二槽式洗濯機、僅かですが販売しているそうです。丈夫で長持ち、しかも片方で洗っている間に、片方で脱水できるとあって、かさばるほどの洗い物の量でも、どんどん洗える、という利点もあって、ガソリンスタンドや工場など使っているところは使っているんですね。そこへ行けば今でも洗い物ブクブクが見られるかもしれませんが、じっと洗濯機の中を覗き見ているとこのご時世、妙に怪しい、ですね。懐かしむだけにしますか。

 

 

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使