佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2019.03.18

第45回 60にして座る!?

妻たちの同窓会で僕が餌食になってしまったらしい。「信じられない、今時トイレで立って用を足すなんて…」といった按配だったというんですね。当然、妻はとにかく僕の味方に回ってくれたのだろうとおそるおそる、「みんなに何て言ったの?」と聞きました。「リフォームしたら座ってしてもらう」と答えたというんです。

「ああ、なんたることか!」
シェークスピアのリア王の一節に「わしは太陽の聖なる光にかけて、空行く星の運航にかけて誓おう」というリア王の台詞があります。「揺らぐことのない信念で言うぞ!」というようなことでしょうか、大げさでなく日本男児にとってそれくらいの大事なのではないでしょうか。立って用を足すことは。

それが男の生理的文化から消え失せようとしているんです。
TOTOなどの調べでは三分の一くらいの男性が座って小便をしているということです。意外に多いんですね。一般的にはすでに四割の男性たちが座って排尿組だとも言われています。息子たち二人に聞きました。どうやら二人とも座って組のようです。彼らはいったいいつ頃から座り組だったのかまでは聞きませんでしたが、どうも幼き頃から、のようです。ですからなんの抵抗もないんでしょうね。

でも64歳のニッポン男児、抵抗ありますね。“大”目的で入って、座って“小”も足す分には何ら問題はないのですが、目的が“小”だけの場合、はなからズボンをおろして座るというのは、どうもなんだか男の沽券にかかわる様な、そんな気さえしてきます。

”沽券“だけじゃなくて男の体にとってリスクがあるとも言われているんですね。排尿目的だけに座って用を足すと、残尿感があるという男性が多いそうです。女性より尿道が長い為そのようなことがリスクとして起こりやすいとも言われています。

もっとも医学的には証明されていないようですが。単なる残尿感なのか前立腺肥大なのか、わからない、となると前立腺肥大、果ては前立腺ガンを見落とす場合だってあるわけです。

もう何か月も前ですが、NHKの名物番組『ガッテン』で、立って用を足すとオシッコがやたら飛び散る、不衛生かもしれない、とやっていました。

別に女性アナウンサーが悪い訳じゃないんですが、「こんなに飛び散っているんです」と実験結果の報告をしている小野文惠アナウンサーが憎たらしく感じられたりして。あんな人気番組でやられた日にゃ、一おやじの”沽券“など木っ端みじんですね。

それにしても”沽券“に係わるとまで思ってしまうのはなぜでしょうね? 間違いなく育ってきた「時代」ですよね。大きな声じゃ言えませんが「女じゃあるまいし座ってションベンなんかしてられっか!」なんて気持ちがどこかにあるんじゃないかと。

それと、これはもう少し大きな声で言っていいかもしれませんが、そんな旧石器時代の様なたわ言を口にするオヤジほど結構優しいんですよ。いや、下心があってという訳じゃなくて。これまでたくさんのおやじが女性に対して無茶振りしてきた過去がありますから、そんなことを言っても聞く耳を持ってもらえないでしょうけどね。そんなところから、今男どもが、トイレ事情で逆襲されているのかも知れません。

ただ、いろいろ調べていくうちにわかってきたんですが、小便用のトイレというのはどうやら明治時代に西洋からもたらされてきたもののようです。そうすると江戸時代までは男はどうしていたのか、よくわかりません。

しかし、時代劇でもよく酔っぱらって立ち小便している様子が描き出されていますから、男の小便は、立ってしていたのではないかと考えられます。現在は、そういえば軽犯罪法にひっかかるそういう行為は滅多に見ませんねぇ。

これからは、我が家のトイレでも目をつぶって、放尿感一杯に気持ちよくオシッコをするなんて男の特権はなくなったという事だけは言えそうですね。「急ぐとも心静かに手を添えて朝顔の外に漏らすな松茸の露」飲み屋のトイレでよく見るこんな風流な張り紙(女性のトイレにはそういう張り紙はあるのでしょうか)も消えちゃうんですかね。トホホ。オシッコしちゃいたくなりました…。

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使