佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2018.11.28

第38回 心優しき戦士たち~そのスーパースター達の素顔

長州力、武藤敬司、前田日明、蝶野正洋、スーパースター達のこの名前、彼らが相対する場面、それはプロレスファンなら誰しも今一度見てみたい垂涎の場面ということになります。

特に50代後半くらいからのプロレスファンにはこたえられませんね。計らずもその場面に立ち会うことができたのがこの僕でした。

しかも本物のプロレスが行われるリングとほぼ同じリングが用意され、そのリングの中で会うことができたのです。

しかし、それはプロレスで相見えたわけではありません。BSフジ『11時間テレビ2018全国対抗!脳トレ生合戦‼』という生番組の中でした。それも『叩いてかぶってジャンケンポン』というジャンケンをして勝った方が負けた方の頭を“ピコピコハンマー”で叩く、但しジャンケンで負けた方がいち早くヘルメットをかぶって叩かれるのを防ぐとそれはセーフというバラエティーでした。

こういう趣向だといくらプロレスファンでも、いや、コアなプロレスファンの中には、そういう出演は辞めて欲しいという人達も少なからずいると思います。でも彼らは、真剣にショーアップしていました。ただ単に面白い、なんて言うものではありませんでした。ムチャクチャ笑えるコーナーになりました。去年もこのコーナーはあったんですが、11時間放送の中で、視聴率が一番良かったそうです。今年はさらに磨きがかかっていました。さすがトップレスラー、見せ方を知っているんですね。

僕はひそかに控室で彼らがどういう打ち合わせをするのか楽しみにしていました。今から40年前、実況、リポートということで古舘伊知郎さんとプロレスについていた頃は、ひたすらその日の試合について取材するだけで、彼らの素顔にはほとんど触れたことがありませんでした。

それに皆さんとお逢いするのは10年20年ぶりという方々ばかりでしたから、けっこうワクワクドキドキでした。18時過ぎと21時頃の2回、生で“夢の対決”があったのですが、彼らは殆ど台本に目を通していませんでした。どうぜおふざけ、だから適当にやるのかな、と思っていたのですが、呑み込みの早い事。

武藤さんは自分が喋るタイミングを一回聞いただけでしたが、生本番はベストなタイミングで口を挟んできました。長州さんは去年と変わらずジャンケンは弱いのですが、1回戦から去年と打って変わって、ジャンケンで負けても目にも止まらぬ早業でヘルメットをかぶっていました。後で聞くと、『ジャンケンに、勝っても負けても直ぐにヘルメットをかぶればいいんだよ』とこのゲームの秘策を話していました。武藤さんは『練習してきましたよね!』としきりに真顔で長州さんに話しかけていました。2回戦の前など長州さんがちょっと席を外している時には、『どうやったら勝てるかなあ』と蝶野さんと真面目に打ち合わせをしていました。ゲームは長州さん一人に、はじめは武藤さん、次は蝶野さんといった具合で戦うんですね。3回目は長州さんと、長州さんが選んだ方が戦うんです。で、長州さんが何勝するか、それがクイズで、ゲストの皆さんが予想するんです。

一見、他愛もないゲームなんですが、これを彼らがやると、大迫力のゲームに変身するんです。ジャンケンに勝とうものなら、これでもかと相手を叩きまくるし、ビニールで出来たピコピコハンマーのハンマー部分が柄から取れるほど激しい打ち合いになるし、武藤さんは頭にちっちゃなニキビの様なものが出来ていたのか、そこの部分を叩かれて血が出ていて、思わず実況で「ピコピコハンマーで血が流れました」と叫んだほどでした。

次に登場した時には丸坊主の頭に茶目っ気たっぷりに絆創膏を×印に貼っていました。前田さんは大車輪キックを彷彿させるようなポーズをとるし、蝶野さんはジャンケンで負けるとすかさずハンマーをよけてまるでプロレスの試合のように素早く場外に滑り出るし、どのパフォーマンスも魅せてくれました。

控室では、用意された何種類かのお弁当を頬張る武藤さんに長州さんが『よく食うなあ』と言えば『帰ったら食べないですから』と中学生のような会話をしてくつろいでいた皆さんでしたが、ちゃんと本番に向けてパフォーマンスを組み立てているんですね。それに誰一人格好もつけないし威張った風もないんですね。ファンの皆さんに怒られるかもしれないと思いながら、一緒に写真を撮らせてもらった時は、もう僕も彼らの魅力の前にいちファンにすぎませんでした。

蝶野さんなどは「こっちに入って撮ればいい」と促してくれるし、このコラムに載せていいですか、と聞くと「かまわないよ」という言葉が返ってくるし、さらに「佐々木さんの喋り、いじってもいいですか?」と礼儀正しく聞いてくれました。僕は緊張していたせいもあって「暴力を振るわなければかまいません」などとアホな答えをしてしまう始末でした。

実は僕は猪木さんの闘魂ビンタを食らった元祖なものだから、どこかトラウマになっているんですね。そのビンタを食らった1990年2月10日東京ドーム(番組の名前も「東京導夢」となっていました)での試合、猪木・坂口組対 蝶野・故 橋本真也組でした。その話を蝶野さんにすると急に蝶野さんの強面(こわもて)がほころんで「やっぱり、そうだよね」と返ってきたんですね。蝶野さんは猪木さんの付き人をやった経験があっていろいろと苦労があったことは想像に難くありません。だからなおさら僕にシンパシーを感じてくれたのかもしれません。僕にはそう思えました。

武藤さんは両膝とも今年3月人工関節を入れる大手術をしています。長州さんも、リングアナの田中ケロさんに言わせると「相当腰に来ていますよ」ということでした。あれは1987年でしたか、長州さんは前田さんのキックを浴びて目をやられ、一か月の欠場を余儀なくされ、前田さんはそのキックが原因で団体を去ることになったのに、二人はわだかまりなく話していました。これもケロさんに聞いた話ですが「長州さんは、『前田さんがワザとやったキックではないから』と言っています」と答えてくれていました。そんなファンの皆さんに愛されている長州さんも2019年夏には完全引退。これはここに書いていいか随分迷ったんですが、そんな長州さんにひとつだけ聞きました。「来年、本当に引退するんですか?」って。

長州さんは一拍、間があって「何回も引退したんだけどね、もういいんじゃないかな、時々ロープが見えにくい時があるんだよ」と。この時ばかりは、切なかったですね。どれだけファンを大事に考えているか、よくわかりました。スーパースターの皆さんとの束の間の触れ合いでしたが、男の優しさってどんなものか、がひしひしと伝わってきました。本当に強い人は優しいんですね。僕は今でも血を見るとボーっとしてきてしまい、アナウンサーのくせに、プロレスの実況はどうも苦手なんですが、これだけは言えます。

プロレスは“ショーアップされた真の格闘技”だって。

※写真は長州さんのセコンドに就いた獣神 サンダー・ライガーさん、船木 誠勝さんにも一緒に撮ってもらいました。

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使