佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2018.10.22

第34回 樹木希林さんの凄み

「おごらず、人と比べず、面白がって平気に生きればいい」

これ、ご存じのように樹木希林さんの言葉です。

結構この言葉で励まされる人、多いと思いますよ。僕もそのひとりです。

テレビ朝日を57歳で辞めて、それまでアナウンサーとしてワイドスクランブルの『夕刊キャッチアップ』という名物コーナーを担当し(日本人ってなぜかこういう時に「担当させてもらって」って言い方するんですよね。確かにプロデューサーに「あいつにやらせろ」って言われて初めてその場に出てこられるのが局アナというものなんですが、そのあとダメだったら「はい、サイナラ!」ってやるのもプロデューサーなんですからそこまでいつもへりくだる必要はないような気がするんですけどね…ってなんだか貴乃花の正論⁉のようになってきましたか…)、視聴率も良くて(そう言えば当時から記事を読んでいつも断トツの視聴率だったのが樹木希林さんでした。)、回りから多少ちやほやされて、収入も良くて、そういうものがカンバンが無くなった瞬間から、ほとんどなくなりました。おまけにフリーになった当時、周りの一部からは「あいつ、あんなに安定しているのにバカなんじゃない」という声まで聞こえてきました。

でも、樹木希林さんじゃないけど、『面白い!フリーになって良かった!』心底思いますね。強がりじゃなくてそう思うんですね。まさに樹木さんの言う「おごらず、人と比べず、面白がって平気に生きればいい」という感覚なんですね。それに局アナでいた時にはちっともそうは思っていなかったんですが、今思うと「おごっていた」というのは少なからずあったと思いますよ。だからフリーになって辛かったり悲しかったりするたびに、その“おごり”が取れて、今の方がずっと人として自分の事“いい奴”だと思えますね。

この間もスプレー缶捨てるのにちゃんと中のガスを抜いて(自治体によって違うんですが、川崎市は中の液体さえ抜けば、ペットボトルや缶を捨てるところに一緒に捨てればいいんです)、さらに缶に穴を開けて捨てましたもんね。それはごみ処理の人が危ないだろうなって素直に思えたからなんですね。それまでもひどい捨て方をした記憶はないけれど、それほどゴミ処理の人にとって危険、という感覚を持っていたかどうか疑問です。

だから、明らかに今のほうが“驕ってない”んですね。樹木さんの言葉ってその文言そのものが“驕ってない”んですね。だから名言なんですね、きっと。《驕る平家は久しからず》のまさに逆、です。それが“樹木さん流自然体”に繋がるんでしょうね。

その“樹木さん流自然体”でいうと、樹木さんが亡くなって、その言行録が山ほど伝えられたんですが、その何処にも登場しなかった言葉があります。いつだったか、遠い昔、内田裕也さんが樹木さんに断り無しに離婚届を提出して、それに気が付いた樹木さんが、市役所まで行って、自分の意志で離婚届に名前も書いてないしハンコも押していない、偽造であり無効だと言って離婚届を取り戻したというか、撤回させたことがありました。芸能ニュースで大きく騒がれ、記者会見になった時のことです。今でも、この時樹木さんに、内田さんじゃなくても、度肝を抜かれた思いだったのを覚えています。

「離婚というのは、ちゃんと夫婦生活を送ったうえで、なんだかんだと問題が出てきて別れようというもの、内田(裕也)はちゃんとした結婚生活も送ってないのに、離婚する権利はない!」と言ってのけたんですね。

「うへぇ~」って。そんな離婚の“キキ”脱出、聞いたことがない、「こりゃ内田さん、かなわいないや」と思ったものです。人をケムに巻くというか、人を食ったようなところは多少ありますが、言われてみればその通り。

でもこの言葉には、彼女が残している「内田裕也の全てが、好きです。全てが」という名言が示しているようにとことん愛していたんでしょうね。そうでないとこんな哲学のような言葉は出てきませんよね。

そう! 彼女はひょっとしたらソクラテスより上の哲学者だったかもしれません、だから、樹木さんが素敵だったからといって、彼女の言ったことをそのまま自分に当てはめると、返って辛くなるかもしれません。普通は彼女ほど人は強くないですから・・・合掌。

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使