佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2018.10.01

第32回 現代人は幸せなのでしょうか?

先日、地元のJRの駅で、横から割り込んでパスを当て自動改札を通過していった若者がいました。ああいう予期せぬ不愉快さというのは事の大小を問わず相当“イラッ”としますよね。僕は物分かりのいいオヤジではないので、その若者を呼び止めました。

案の定、その若者はイヤホンをしていました。何故、案の定、というかと言うと、正確に調べたわけではないですが、電車の中やプラットホームでトラブルを起こす多くの人が、外界を遮断したイヤホン族という印象があります。

こういう表現をすると直ぐに「じゃあ、イヤホンをしている人間は皆、マナーが悪いのか! お前は電車の中でイヤホンをしたことがないのか!」といったお叱りを受けます。こういうのを「言いがかり」と言います。そして、特に大マスコミ、とりわけテレビはそんな「言いがかり派」を恐れます。だからあまりそういった話題を取り上げません。確かに天下国家を論ずるわけではないですからね。そんなに真剣に取り上げる必要はないかもしれません。でも意外に日本人の本質に迫るものがそういった日常の些末な出来事の中に潜んでいるかもしれません。いや、潜んでいると信じているからこそ、今回その“些末な”出来事にスポットを当ててみました。

話を戻しますね。その若者は呼び止められて直ぐにどう言ったと思います? 乱暴に耳から自分のイヤホンを抜き取り、「ナニィー!」と怒りのチンピラ声を上げ、すでに戦闘態勢でした。21歳だったかな、僕は、この男、こういったトラブルに慣れているんだな、というかしょっちゅうこういうマナー違反を起こしているんだなと思いました。そして「君は今、(仕事は)何をしているんだ?」と勢い、詰問調で聞いてしまいました。

すると彼は、「介護士だよ!」と今度は雄叫びモードで答えました。

僕はひるみました。同時に大きなショックを受けました。その理由はこうです。

義理の父が94歳で、元気は元気なのですが、ショートステイなどしている時に、時折、わがままを言います。でも、いつも不思議に思っていたんですが、ヘルパーさんや介護士さんがニコニコしながらその義父の世話を焼いてくれています。『よくもまあ、笑顔でできるもんだなあ。腹が立ったりストレスが溜まったりしないのかなあ』と感心していたのですが、やっぱり相当溜まっているんですね、この男を見る限り。

同時に、そう思ったら義父を預けていることが怖くなりました。この目の前にいる男は、介護士のごく一部だとしても、このところ老人ホームで殺人事件が立て続けに起こっていることなどを考え、それとダブってゾッとしてしまったのです。

しかも、そんなけしからん男に限って、権利をかざす言葉を口にします。

「どこの老人ホームに勤めているのか」と聞いたら「個人情報だから言えない」と言ったんです。こういうところがピントがずれているというか、滑稽というか、しまいには可哀そうになってしまいました。

本人は内心、ドキドキしたでしょうね。通報されたら即クビですからね。だからそれ以上は追及するのは止めました。

家に帰ってその出来事を話したら、カミさんに「そんなことしていると大ケガするわよ」と注意されてしまいました。世相ですね…。

しかし、今回のことで、犠牲的精神を伴う尊い仕事に、そんな人間が少なからずいるであろうことを現実に見せつけられ心底がっかりしました。

本来、介護士の仕事は高給に値すると僕は思っています。自分のことを二の次にして認知になっている老人のわがままにニコニコと応対しなければならない、このような仕事をしている人こそ日本人の魂であり、未来に残さなければならない「心の文化遺産」だと思っています。

もちろん、救いもあります。それはおばちゃん介護士。素晴らしいですね!おばちゃんパワーで凄いのは何も大阪だけではないんですね。義父が1週間おきにショートステイに行っているのですが、そこでのおばちゃん介護士の対応を見ていると「プロだなあ」と感心させられます。義父はリンゴジュースがあまり好きではないんですね。
例えばこんな場面。若い看護師、これは男女問わずですが、「体にイイですから、飲みましょう、○○さん」とやる。これだと義父は飲みません。それがおばちゃん看護士が「おとうさん、それ、どんな味か教えて!」とやる。この一言で、義父にはアイデンティティが生まれる。「美味しくないよ」と義父から返ってくると「おとうさん、美空ひばりの“リンゴ追分”ってあったよね」と応酬。最後は義父が乗せられるようにして、ゆっくりと飲み干し、おばちゃん介護士の勝ちとなる。経験値と携わっている仕事への誇りなんですね。

こういう人を見ていると、僕もついついこのおばちゃん介護士のファンになっちゃいます。老人ホームなどのマニュアルには、何人ものおばちゃん介護士の老人への接し方を具体的にいくつも載せて欲しいですね。こういう気持ちの良いおばちゃん介護士に共通しているのは、声が大きい、明るい、さっぱりした雰囲気を持つ、ざっくばらんなようで、ち密、等の共通点がありますね。こういう介護士の皆さんは、もっと公の場で表彰されるべきですね。

まあ、今回の若者の出来事で、改めて現在の日本がストレス社会なんだと感じさせられましたね。社会のギスギスした感じが、シミの輪のように拡がり、蔓延して日本中がイライラし始め、病んでいる。冒頭“些末な”と書きましたが、世界中で一番最初に深刻な老人問題と直面する日本で“些末”で片付けられている“本筋の大きな”問題を解決しなければいけません。介護士の給料をもっともっと上げるということは、その仕事の質が高まると同時に、一方でいよいよ素封家の家族しか十分な介護が受けられなくなる恐れも並び立つことになります。我が家にも94歳の義父がいます。時々、すごく疲れます。どうすることがベストな答えか、いまだわかりません、いや、どんどんわからなくなりますね。今回は、済みません、結論めいた言葉が用意されていません。読者の皆さんの回答をおしえてください。

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使