佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2018.02.13

第14回 楽しい人生

アルツハイマー病を発症する前にその原因となる物質が脳内に潜むことが超早期にわかる血液検査を確立したと、ノーベル化学賞を受賞した(2002年)田中耕一さんが発表しました。

たったの0.1cc の血液でわかるそうです。

認知症の多くはアルツハイマー病で、その発症と深く関わっているのが異常なタンパク物質アミロイドベータ(Aβ)というものなんですね。

しかも、お医者さんに言わせると早晩、このAβをやっつける薬も登場するとかで、そうなると平たく言えば、人間はボケなくなる確率が今よりずっと高くなるということになります。

じゃあ、好き勝手やっていたらいいかというと、そうでもないんですね。

「うん!? 松方弘樹がまた死んだね」とテレビを見ていた義父がぼそっと一言。確かに一日のうちに何度もテレビでその訃報を伝えているから、そういうハナシになります。人の死を、義父の言葉で茶化す気持ちはサラサラないのですが、その言葉を耳にしたときは不謹慎にも笑ってしまいました。

おじいちゃんは、と言ってもホントは義父のことなんですが、実の娘である僕のカミさんが、義妹と共に「ジジ、ジジ」と呼んでいるから、ついおじいちゃんと言ってしまいます。大正13年元日生まれの94歳。時々妙なことを口走るけれど、かくしゃくたるものです。

今は妹と一緒に住む実家と我が家とショートステイを行ったり来たり。年を取るとあまり引っ越しをしないほうがいいと言われますが、ジイーッと動かないよりは、多少は運動を兼ねて動いたほうがいいのではないかな、と僕は思っています。

どこでの出来事だったかごちゃごちゃになるくらいは、仕方のないことです。

63歳の僕だって、朝、薬を飲んだか飲まなかったか、直ぐに忘れるし、さっき聞いた人の名前だって、さっさと忘れてしまいます。

別に自慢している訳ではありませんが、年を重ねるということはそういう事でもあるのですから、苦にする事はありません

こんなこともありました。僕のマンションからは富士山が見えます。冬の晴れた日には自慢の景色です。義父もうちに来ている時はそれを朝一番の楽しみにしていますが、視力が落ちているためか富士山が見えにくいことがありました。

そこで僕が遠くを指さして「あそこに見えているでしょ」と言ったら「あの、富士山のように見える山?」と聞いてきました。

「富士山のよう、ではなくてあれが富士山!」

朝の我が家が笑いで明るくなります。その一方で、僕は義父を少し見下して言ったことがありました。

詳しくは知らないだろうと高を括って「お義父さん、これからはAIの時代ですね」と言った途端、すかさず「あーてぃふぃしゃる・いんてりじぇんす、だね」と返ってきたのです。僕は恥ずかしくなりました。

「I」が「インテリジェンス」の略であることは察しがついていましたが、正直「A」が何という言葉の略であるかはその時点で知りませんでした。

種明かしをすれば、義父は中学校の英語の先生をやったことがあったので、昔取った杵柄だったんですね。

でもそれ以来、僕は義父に一目おくようになりました。毎朝、日経新聞を丹念に読んで、わからないところを僕にぶつけてきます。

僕もいちいちスマホ片手に調べますから、いい勉強になります。孫である僕の息子たちも物知りお祖父ちゃんを尊敬しています。

義父を見ていて気が付いたことがあります。

年寄りは年を取っているから嫌われるのではなく、ボケているから嫌われるのではなく、物忘れがひどいから嫌われるのではなく、よだれが出るから嫌われるのではないんです。

今を生きてない人が多いから、話していてもツマラナイ!って、嫌われるんだなと。もちろん自戒を込めて言っています。

老いてなお、意欲があること。いろんなことを知っていること、勉強していること。義父が冬のオリンピックを見ていて「あの、前に出ていたサワダ…」と言っても「あ、それ浅田ね、浅田真央ちゃんね」とフォローすれば済むことです。

要はそんなことをあげつらうのでは無く、話の内容です。それから表現です。ポケットに入れたはずの小銭入れをやっと見つけた時も小銭入れを「つかまえた!」と表現していました。チャーミングですよね。

そんな義父ですから、お風呂に入れるのも僕は全く苦ではなくなりました。

よくテレビなんかでは『お年寄りに対しての家族の配慮』についてやっていますが、60歳以上になったら、ボチボチ『家族への配慮』として、そういうことを考えて実践したほうが人生楽しい、ということになりそうです。

加えて言うとさりげない事でも自分の為にやってくれたことにその都度「ありがとう」という言葉。それが友達だろうが、家族だろうが。親しき仲にも礼儀あり、ですね。義父に言われて最初、むず痒い気持ちで「お義父さん、そんなこと言わなくてもいいですよ」とよっぽど言おうかと思いましたが、今は言わなくて良かったと思っています。時々はやってあげたんだという気持ちになりますからね。

完全にボケてしまっても義父にはできるだけのことをしてあげたいと思っている僕が言うんですから、間違いないですよ。

読者の皆さんは、「家族の配慮」「家族への配慮」両方を求められる立場にいらっしゃる方も多いと思います。一緒に人生、謳歌しましょう、ね。

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使