佐々木正洋のいまさら聞けない一般常識 ベテランアナがやさしく解説

2017.11.22

第5回 流行語大賞ノミネート「アウフヘーベン」て何?

ベートーベンでも、バームクーヘンでもない、アウフヘーベンって何? 今年、流行語大賞の候補に挙がった言葉のひとつに他の言葉とは毛色の違う言葉が登場しました。

こういうのって僕なんかは一瞬かたくなるんですよね。アナウンサーという立場上、友達なんかからも“佐々木は知ってて当たり前”みたいな空気が流れて『えっと、なんだったっけ』とひとり焦るんです。同じ流行語大賞の候補に挙がっている言葉でも“けものフレンズ”を知らなくても60代以上の人は恥ではない、みたいな感じがありますよね。という訳で今回は“今さら聞けない”真骨頂の、この流行語大賞の候補に挙がった30の言葉について話していきましょう。

先ずは、今話した「アウフヘーベン」。今年ちっとも流行ってなかったのですが、小池百合子都知事が口の端にのせていたが為に流行語大賞の候補に挙がったんですね。当時、どんな風に使っていたか、改めて調べてみました(もう、小池さんに全く関心がないかもしれませんが)。

小池氏は9月25日、希望の党設立記者会見を開きその際に「これまで若狭さん、細野さんはじめとする方々が議論してこられましたがリセット致しまして私自身が立ち上げるということでございまして」と強烈な言葉で始まりました。この記者会見で実はアウフヘーベンという言葉を使っていたんですね。どういう風にかというと

「今回は大義なき解散総選挙。世論調査を見ても多くの国民の方が疑問に思っている。ましてや北朝鮮情勢が緊迫している中での総選挙―中略―国家の危機管理上、疑問に思います―中略―いままでの議論をアウフヘーベンし、国民が希望の持てる政策を投げるべき」と続けたんです。さらに「これからは考えられないことを考えることが必要です―中略―今までの議論をアウフヘーベンし国民が希望の持てる政策を投げるべき」とまたこの言葉を使い、彼女、よっぽどこの言葉が気に入ったのか、この後記者の質問の答でも「ここでアウフヘーベンを使うと―中略―国民のニーズというのは、メディアが引いたレールの延長線上にはない」ときた。ではこの「アウフヘーベン」なる言葉の意味は何なのか?広辞林によれば【ヘーゲル以後、弁証法において、概念(事物)の発展を説明する重要な用語。矛盾対立する二つの要素が作用しあって、相手を否定廃棄しながら両者を包含する一段と高い統一体に発展すること。止揚。揚棄。】

こうなると僕などもうチンプンカンプンです。それもそのはず、と言い訳になってしまいますが、哲学の分野の言葉なので普段会話に出てくる言葉ではないんですね。必死に意味を解釈すると以下のようなことです。有名な例があり、インターネットからの引用ですが、一人が「これは三角形である」と言いました。もう一人は「いや、丸である」と言いました。同じ図形を見ているふたりの意見は矛盾し、対立していますね。それでは二人の意見をアウフヘーベンしてみましょう。すると二人が見ている図形は円錐形だという答えが導き出されます。横から見たのと上から見たのとの違いということになりますね。やっと「アウフヘーベン」がすっきりしましたね。都政と国政、都知事と党首、築地と豊洲、なるほど小池氏がアウフヘーベンという言葉を使いたがるのもわかる気がします。でも小池さん、どれもアウフヘーベンできていませんね。

てなわけで、12月1日に発表になる流行語大賞に絶対に選ばれない、流行語大賞にノミネートされたたった一つの言葉にこんなに字数を割いてしまいました。次回は30の候補に挙がった言葉をもうちょっと数多く取り上げましょうね。やれやれ。

    佐々木 正洋
    佐々木 正洋
    1977年アナウンサーとしてテレビ朝日入社。16年間担当「夕刊キャッチアップ」の最高視聴率16%は今だ破られず。また、2002年出版の「ちょっとしたコツで誰でも『上手な話し方』が身につく」は、当時現役局アナとして近年初1万部を突破。猪木の闘魂ビンタの元祖。2012年独立。テレビ、ラジオで活躍の他、各種イベントの司会や講演を行い、「雑誌ネット」で記事批評を載せ、駒沢女子大学で講師を務める。インターネット、新聞などで世相を斬る、コラムニストでもある。北九州市観光大使